女性医師による治療は女性患者で有益

 担当医の性別が内科入院患者の死亡率や再入院率に与える影響は、女性患者で特に大きいことを示す論文が4月23日(米国東部夏時間)付で、米国内科学会の「Annals of Internal Medicine」より公開されますのでお知らせします。東京大学大学院医学系研究科の宮脇敦士特任講師、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の津川友介准教授らによる共同研究チームによる報告です。

 

 これまでの研究で、女性医師による診療は、特に女性患者においてコミュニケーションの改善や、医師患者関係の良好化、医療アドバイスの遵守率向上、ひいては患者アウトカムの改善などの良い影響があることが指摘されてきました。一方、女性患者は男性患者に比べて、集中治療を受けにくかったり、診断が遅れがちだったり、痛みなどの症状を過小評価される傾向があり、患者の性別により受ける医療の内容に差がみられるということが指摘されてきました。これらの知見は、医師の性別が、男女の患者が受ける医療の違いに影響している可能性を示唆しています。

 

 しかし、医師の性別が患者の健康アウトカムに与える影響が、患者の性別によってどのように異なるかについては、わかっていませんでした。そこで今回、研究チームでは米国における65歳以上の高齢者の内科入院データを用い、担当医師の性別が患者の死亡率や再入院率に与える影響が男性患者と女性患者でどのように異なるのかを明らかにしました。

 

 米国のメディケア診療報酬データ(メディケアは65歳以上の高齢者のほぼすべてが加入する医療保険)を用いて、女性医師と男性医師が治療した緊急入院患者のアウトカム(30日患者死亡率、30日再入院率)を比較しました。その際に、私達はホスピタリスト(入院患者のみを診る医師)が治療した患者に注目しました。米国のホスピタリストは通常、シフト制で勤務するため、医師は患者を選ぶことができません。また、患者が医師を選ぶことができない状況を作り出すために、緊急入院した患者のみに分析を限定しました。このように医師も患者を選べず、患者も医師を選べない状況では、女性医師と男性医師への「患者の割付」が同じ病院の中で、ほぼランダムに近い状況と考えることができるため、患者の重症度の違いが結果を歪めることを防ぐことができます。

 

 2016年から2019年の間に42,114人の医師が治療した776,927人の患者について、医師と患者の性別の4つの組み合わせ(女性医師に治療された女性患者、男性医師に治療された女性患者、女性医師に治療された男性患者、男性医師に治療された男性患者)ごとの患者アウトカム(入院後30日以内の死亡率、退院後30日以内の再入院率)を分析しました。分析においては、さまざまな患者の要因(年齢、性別、主傷病、併存疾患など)、医師の要因 (年齢、学位、年間診療患者数)、および病院の固定効果を調整することのできる回帰モデルを使用し、それらの影響を統計的に補正しました。

 

 その結果、入院後30日以内の調整後死亡率は、女性患者では、女性医師に治療された場合8.15%、男性医師に治療された場合8.38%と、女性医師のほうが0.24ポイント(95%信頼区間, 0.07〜0.41ポイント)統計学的に有意に低いことがわかりました。一方で、男性患者では、女性医師に治療された場合10.23%、男性医師に治療された場合10.15%と、女性医師の方が死亡率が低い傾向はあるものの、統計学的に有意な差はありませんでした(差:-0.08ポイント [95%信頼区間, -0.29〜0.14ポイント])。再入院率についても同様の傾向が認められました(図)。これらの結果から女性医師の治療による患者への「利益」は女性患者において大きいという事がわかりました。

 

 米国でも日本と同様に、女性医師はいまだ少数派で、女性患者が女性医師に診てもらう機会は不足しています。これらの結果は、医療における潜在的な女性患者の不利益を解消し、女性患者がより質の高い治療を受けるためには、医療現場における女性医師を増やす努力を続ける必要性を示しています。また結果のメカニズムは不明ですが、男性医師が女性患者の症状を過小評価したり、女性患者が女性医師にはより気兼ねなく症状を打ち明けられたりすることなどが、この結果の背景にあると研究チームでは推測しており、今後は、そうした具体的なメカニズムをより詳細に解明することで、質の高い医療を男女平等に提供する方策を講じていく必要があると私達は考えています。

 

書誌名:Annals of Internal Medicine

題 名:Comparison of Hospital Mortality and Readmission Rates by Physician and Patient Sex

著者名:Atsushi Miyawaki*, Anupam B. Jena, Lisa S. Rotenstein, Yusuke Tsugawa

*Corresponding author

DOI: 10.7326/M23-3163

URL: https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/M23-3163