COVID-19流行時における手術件数変化の評価



 COVID-19の流行時、医療従事者や患者における新型コロナウイルス感染防止のため、多くの手術が延期・中止されることが予測されていました。しかしながら、COVID-19流行時に、実際にどの程度手術件数が減少したか、また、その減少の程度が診療科毎にどのように異なるのかについては、世界的にも十分な報告がありませんでした。これらの情報は、手術減少の患者さんの健康や病院経営への影響を考える上で重要な情報となります。

 

 そこで、今回、私たちは、 メディカル・データ・ビジョン株式会社(東京都千代田区の保有する大規模診療データベースを用いて、全診療科および各診療領域(脳神経科、乳腺外科、心臓血管科、皮膚/形成外科、消化器科、婦人科、産科、眼科、整形外科、耳鼻咽喉科、泌尿器科)におけるCOVID-19流行期間中の手術(血管内治療や内視鏡的治療を含む)の減少幅の定量化を試みました。このデータは2019年1月から2020年4月末まで継続的に観察されてデータ利用可能であった、約180のDPC病院の全入院・外来診療(保険償還されるもの)の情報を含んでいます。具体的には、2020年の第2~9週(1月6日~3月1日)と2020年の第10~17週(3月2日~4月19日)の、それぞれ8週間の手術件数の変化を調べました。手術件数の季節変動を調整するため、2019年の同時期の手術件数の変化をコントロールとしたDifference-in-Differences Approachと呼ばれる手法を用いました。 

 

 その結果、全診療科の総手術件数は2020年第2~9週目の21万2933件から2020年第10~17週目の19万2928件へと減少しており、季節変動の調整後は、9% (95%信頼区間 8-10%; p<0.001)の減少でした。診療領域別の手術件数では、耳鼻咽喉科の23%減少(季節変動調整後 p<0.001)、脳神経外科の17%減少(p<0.001)をはじめとして、多くのの診療領域で統計学的に有意な減少が見られました。一方、乳腺、婦人科、泌尿器科では統計的に有意な減少は見られず、COVID-19流行期間中の手術減少は診療科によって異なることがわかりました。この違いの原因は、診療科ごとの医療リソース使用パターンの違い、手術の緊急性の内訳の違い、エアロゾルへの曝露リスクの違い、関連学会の推奨の違い(鼻に関する手術は非コロナ患者でも延期するように学会より推奨されていました)などを反映していると考えられます。

 手術の緊急性についてのより詳細な解析では、急ぐ手術(urgent surgery)と待てる手術(elective surgery)のうちcommonなものから順に3つ選んで変化を比較しました。その結果、急ぐ手術(内視鏡的胆道ドレナージ、尿管ステント挿入術、緊急帝王切開)では、統計学的に有意な減少はありませんでしたが、待てる手術(白内障手術、皮下良性腫瘍切除、股関節・膝関節置換術)では有意な減少が見られました。

 パンデミックによる医療提供体制の制約・手術減少が、長期的に患者や病院経営にどのような影響を与えるかは今後検討されるべき問題ですが、私達の知見は、そのような検討を行う際には診療科ごとに別々に考えてあげる必要があることを示唆しています。また、COVID-19流行のような大きな社会的変化が再び起きた際に、大規模診療データベースを用いることで、医療サービス提供への影響を迅速に評価し社会に還元することができる可能性を示しています。

 

本研究は、米国外科学会の公式機関誌である、Annals of Surgery に掲載されることになっています